未題

短編より短い短編小説

メビウスの輪

 なけなしのSOSは気づかれなかった、というより、わたしのほうがどうかしている。焦りもあるけれど、根本的恐怖から逃れるため出したそれが打ち払われ、目覚めの一発にしてはあまりに手痛いビンタに、おもわずわんわん声をあげ泣く。

 「いきたくないよ、もういやだよ、しにたいよ。」

 何度も何度も紡いだそれは一時期意識的に口を噤んだこともあれど、正直なこころを吐露できないのはあんまりにも辛くて、つぎの瞬間生きる意思に変えるつもりでこぼすことを許可している。

 他者を変えるつもりはない。捻じ曲げれば必ず歪む。歪んだ分清算するハメになる。たとえそれが才能を深化させるに有効だったとして、そのひとがしんでしまうよりずっと良い。
 命より大切なものはないから、できる限り多くのひとに生きてほしい、けれど。

 「ほらまた。あなた自身、生き残れるかどうかよっぽど不安なのね。」

 彼女は言う。ちがうの、とわたしは言う。

 「ひとりぼっちは不安だから、ひとりにならないよう声をかけるけれど、結局自分はひとりぼっちなんだ、気づかされる瞬間が辛いだけ。」
 「完璧主義者もたいへんねえ。」

 彼女の微笑みは一瞬のうち、視界の端でブラックアウトした。

 なにか注意されると自分を傷つけなくてはすまないというのは、厄介な性分だとおもうんだ。たとえばそれが幼少期の暴力的行為による制御からくるものだとして、かといっておとなになったいま、その過去を知らない何者かに対する些細な指摘についていちいち手首を切っていたんじゃあ、ちっとも先にすすめないだろう。どころか、一般的にいえば注意にもはいらない事象について彼らは無頓着であるのだから。

 「たったひと言が辛いの。」
 ぽつりとこぼす。
 「たったひと言が永遠みたいに、わたしのなかにはいってくるの。」

 彼女は頷く。

 「断続的に現実をつなげていく、いまを積み重ねて息をつないでいく。生きるとはそういうことだと気づいたとき、わたしは、その測り知れない恐怖に酷く怯えていた。」
 「答えは出たのかしら。」
 「答えは、出ない。」
 「それはどうしてだとおもう?」
 「生きる限り、延々つづくことだから。」

 彼女は頷く。

 「けれど生きるならば、すくなくともいま、生きることを決めているなら、崖っぷち間際で踏ん張るしかない。ほかの選択肢はないよ。草原で花を摘んでいるひまはないのだから。」

 彼女が頷いたかどうか、わからない。