未題

短編より短い短編小説

生還の代償

 自らの叫びを発することにより一瞬は落ち着くけれど、その後自身の発言がどんどんと退路を断っていく現実に気づく。さっと青ざめ、冷めたもうひとりの自分が、毎分毎秒トランスにはいりつづけるのを酷く斜に構えてみている。
 やりきっているのは良い、本気すぎるのも良い、やりたくてやっているのも良い。むしろ我にかえらないほうがいい。それでもだれかと接するとき、相手の感情が追いついていない場合、わたしのこの熱は相手を不快にさせてしまうだろう。

 だからわたしは嫌でも我にかえり、あらゆるひとのあきらめの目を感じながら、それでも本気を貫いて、痛々しさそれ自体をもエンターテイメントとしなければならない。

 ぼくは教祖になりたい、と彼は言った。
 ひとりの人間でありながら、人間を超え人間を操ろうとするそのこころはとても傲慢だとおもう。
 それでも彼の言いたいことはなんとなくわかる気がして、わかりたくて、わたしは頷いた。

 「世のなか、なにが起こるかわからない。」
 そうおもう、わたしは頷いた。

 「ぼくはいまでも、父におまえの頭はおかしいと言われる。」
 彼の切なさをおもいながら、やはり頷いた。

 「ひとは死ぬ。だれでも殺すことができる。その物理的限界の領域においてぼくらは平等だ。」

 彼の口から紡がれることばにはいちいち不穏が纏わりつく。けれど、わたしは彼の本質をつくことばにいつでも驚かされていた。
 ただひとつ、紙ひと重のちがいだけなのだ。

 「ひとを殺しちゃいけない理由はどこにもない。もし問われたとして、だれも論理的な説明はできない。」

 わたしは思い出し、そして、彼とわたしとの間にある深い深い谷を、絶対に渡り合えない谷を、想像する。

 自らを殺人者になり得ないと評する人間を信じることはできない。それでも、身近なひとの信頼さえ得られない人間を信じることもできない。或いは自殺に追い込まれるまでその傷を放っておく無邪気な愛情も信じられない。

 どちらにしろすべて罪か、おもい、そんなに暗くってはとても生きられない、とおもう。どちらの色も真実だから、どちらに傾くこともなく、マーブルの現実を受けとめながらきょうも粛々生きていく。

 「よく生きて帰ってきてくれたね。」

 彼女はやさしく抱きしめてくれたけれど、わたしは素直に喜べなかった。代わり、一生消えることはないだろう傷の痛みを感じながら、わたしは絶対にひとを殺したくない、そうおもった。