未題

短編より短い短編小説

本能的拒絶

 疑心暗鬼がとまらない。特定のだれかに向け疑いの念をかける感覚に慣れない。いままでは逃げてきた、こわくなったら信じなければよかった。どちらにせよ理性でひとは信じられないけれど、遠まきに距離を取ることで凌いできた。ほんとうに信じて差し出して、ぐちゃぐちゃに引き裂かれた哀しみを背負うなんてこわい。もうしたくない。
 酷く矛盾しているのに、わたしはこわいこわいと呟いて、信じたいとおもっても信じられない愛のなさを嘆いている。どたばたとわめいて、あらゆるひとにけしかけて、愛をもらって、それでも原因が解決しないから安心はできなくって、ではなんのために悩んでいるのか。時間の無駄だ。頭ではわかっても、こころがそわそわして、落ち着かなくって、弱い。

 一度信じると決めたら楽になる。或いは、本能的に信じられるひとに対して疑念はそう湧かない。そういうひとにはすこしずつ近づいて、愛をもらって、嬉しくって、わたしなりの愛を差し出して、積み上げて、安心して、幸せになる。
 問題は、ことばにできない疑念が、直感的躊躇いが自身のなかに込みあげる場合だ。なぜなら、その疑念がどこから湧いたかまでは理解できても、膨らんでいく感覚に身を委ねるのが辛いからだ。そういうとき、わたしは自身のこころが真っ黒に汚れて、不純な生き物に成り下がったようにおもえる。

 どこまで自身の高潔さを信じているのか、笑える。

 精神が心許なくて、あほみたいに動揺しては意味のわからないことばを紡いで、こわくってこわくって、そういうふうに呟くと妙な野次馬がわくのも堪えられない。おまえらなんかにわかってたまるか、そうおもう。

 わたしはほんとうに愛したひとになら殺されてもいい。信頼と裏切りをひとつにして、裏切りを前提にしてでも信じる。だからあのときだって、わたしは殺されてもいいとおもっていた。いつだって殺される覚悟でいた。
 ただ、相手がそうでなかっただけなのだ。わたしが詰めると、ぼくには自信がないからと、ではそれまでのあらゆる盤上の出来事は、わたしの愛は、どうしたらいいんだ。そうだ、信じたわたしが馬鹿だったんだ。

 何年も引きずってる。

 それでも愛を知りたいから、再び信じてみたいから、何度でも信じたいから、ほんとうは臆せず差し出しつづけることがきっと正解だけれど、正解がこわいのだ。この世に正解はないから。正解にならない場合はあるから。