未題

短編より短い短編小説

重ね重ね

 ろくに休めちゃいないくせ追いうちをかける業務メールに面喰らい、なにか差し出せばそれだけさらに高いハードルを課せられる期待の片鱗を垣間みて、わたしはぐう、と唸った。予測していなかったことがどんどん起こる、こりゃすごい。
 クリエイティブは鮮度が命だ。発した瞬間から腐っていく生ものだ。つまりきょうの作品は基本的にあすへと持ち越せない。まったくおんなじ作品を二度とはつくれない。だから瞬発力が大切なのだ。
 ねむい目をこすって浮かぶイメージを企画書に起こす。理想はみえる。うまく伝わるかどうかはわからない。けれど必要なのは、その場のエネルギー。依頼を依頼とおもわず提案に昇華する負けん気。

 もしあなたが自由を奪われたくないのなら、逃走による手段は功を奏しない。向かい合え。そして呑みこめ。己の存在を猛烈に発信しろ。

 怒涛のごとく動かした手を休めて、ぽちりと送信ボタンに手をかけた途端涙が出た。無性にさびしい。無性に辛い。無性にかまってほしい。突然切り替わったスイッチに驚きながらも、わたしそんなに強くないもん、おもわずこぼす。

 「せめてだれかそばにいて。」

 声は霧散する。

 自分が選んだとはいえ、こういうときの感情はあまりに素直だとわたしはおもう。きっとここで折れたらだめになるんだとわかるから、日ごろから頑なに自己を守っているのだ。何度くりかえすんだろうか。あほなんだろうか。
 ものわかりの少々わるいわたしは、こうしてデジャブをくりかえしほんのすこしずつすすんでいく。かたつむりのようなのろさですすんでいく。けれどかたつむりはあれでも全力で走っているんだ。それとおんなじことなんだ。だからわたしはきょうもほんのすこし前進したんだよ。

 信頼は徐々に積み上がるから。

 着実に関係性を育む感覚が得られるのは嬉しいことだ。これまでどうしても叶わなかった愛を受け取ってもらえるのは嬉しいことだ。そのレスポンスにさらなる愛がかえってきて、そりゃ重いけど、できる限り応えたいとおもうのは人間の性だとおもう。

 わたしの愛もずいぶんと重いだろうから。

 ふたつの愛が合理的に重なって、お互い利用し合って、どろどろしたところをシステムでうまく隠しながら、きらきらした夢だけを叶えられる、そんな台風の目のごとく稀有な土地にたまたま落とされて、感謝しないほうがおかしいだろう。

 「やろう。きっとできる。」

 わたしは気を取り直すとさっと布団にもぐりこみ数秒でねむりについた。英気を養え、そしてあすも闘え。未来は無限に広がっている。