未題

短編より短い短編小説

湧き水

 頭がぼーっとする。目覚めると午後5時、身体がだるい。なにかしなければ、起こそうとしても動かない上半身、もしかすると必要以上にだれかの悲哀を吸い取ってしまったかもしれない。言動から滲み出る人間のあれこれをわたしはたべて生きている。そうして蓄積したたくさんの思想をぐちゃぐちゃに混ぜ、グレーの物語を紡ぐ。きれいでも汚くってもいい。ただ、人間らしいといい。

 久方ぶりに開いた村上春樹をもう一度読み返して彼の痛みにおもいを馳せると、今度は彼女のことを考えてみた。怪我を負い入院するにもタイミングを測り、時間を惜しんでなにか積み上げているのは明白だった。身体を大切に、なんて言うけれど背負っているものの大きさをおもうと、わたしの台詞など気休めにもならないかもしれない。
 いま握りしめている精いっぱいの愛を手放す機会を窺って、それが途絶えて不安になっては、精神を重んじるばかりに身体を置いてきぼりにして。それでもすすまなくっちゃ間に合わない。焦っているとかじゃなくて。時間は限られているから。
 それが人生にとりどのくらい大切なんだ、健康をないがしろにしてまでやるべきことなのか、幾度か問われても、そのくらい押してなにか生み出しつづけなければこころのほうが先にしんでしまう。そんなの嫌だ。錆びついて落ち込んで惨めになる、そんなの嫌だ。

 こういう類いの人間の切なさを最近とてもよく感じるから、わたしはそのたび胸がぎゅっとなる。もどかしくって助けたくなる、ふらり傾いたこころをみつけて、すぐさま手をのばしたくなる。生きてほしい。たとえ切り立った崖のぎりぎりをいつでも渡っているとして、それでも突然いなくなることのないよう、できる限り注意深く。

 わたしにできることなんてたかが知れているけれど。

 まだよくは知らない彼女のことを、欠片を拾っては想像してみる。時折まざる弱さも含めて愛情深さの滲み出るその言霊に掴まれて、彼女にとりいま築きあげた幸せを、今後育てる幸せを、わたしもなるべくなら手を添え、力になりたい。

 だれにでもそうおもえるわけではないけれど。

 考えすぎて熱が出て、朦朧する頭でやはり考えるのは、こうなってしまうのはもう仕方がないから、知恵熱くらいはせめて精神で沈めてしまえと。無限に湧いてくる発想をどんどん形に書き起こして、もういつ死んでもいいから、せめてこの熱量をだれかのこころに深く刻み込んでいこうよ。生きた証を残そうよ。