未題

短編より短い短編小説

愛のポーズ

 「お花、ありがとう。」

 一瞬なんのことかわからなかった、或いは手紙のことを言われているのかともおもった。けれど彼女のそれが皮肉だとわかった途端、ぞくりと走った悪寒はまるで真夜中のメリーさんだった。

 「もしもし、いまあなたのうしろにいるの。」

 飛行機で1時間半も離れた距離にいるとはおもえない。どころか、彼女はわたしのうしろにぴったりとくっつきまるで離れようとしない。わたしがごめんね、言うと彼女はいいのいいの、と笑う。

 「だってあなたがいま忙しいことはわたしがいちばんよくわかっているもの。」
 「一応、手紙を送ったんだけれど、届いていない?」

 届いていない、彼女が言ってから安堵する。

 「そっちに遊びにいきたいとおもっているんだけれど。」

 この前飛行機の予約を頼まれていたことが脳裏を掠めるも、彼女を田舎からわざわざ呼び出し、もてなす余裕がない。或いは彼女は、わたしの時間を浸食し彼女にのみ熱い眼差しを向けることをだれより望んでいる。まだ望まれている、彼女は全然あきらめてなんかいない。

 「まあね、こっちには彼もいるから、彼のお世話もしなくっちゃならないんだけれど。だから、わたしにも時間がないといえばないのよね。それにこのマンションはなかなか良いわよ。眺めが良い。」
 「それは、よかったね。」
 「あ、そうそう。こんなこと電話でわざわざ話したけれど、わたしも母にプレゼントなんか贈っちゃいないから。」

 そうなんだ、言う。気にしないで、彼女はそういうポーズを取る。

 きっと幼いころから、何度も何度もこうして刷り込まれてきたのだ。彼女自身がもっとも愛されるべき存在であることを、丁寧に、丁寧に。

 「身体には気をつけてね。がんばりすぎはよくないよ。なんならたいへんなときはわたしを呼んでね。」
 「いまはがんばるしかないから。ひとりでやるしかないから。大丈夫。」

 そう、と彼女は言う、ほしい答えは言わない。それがなにを意味するか彼女は知っているだろう。

 彼女はずぶずぶの愛がほしい。わたしからそのエキスを何度も何度も何度でも吸い取って、溶かして、ぼろぼろにして、足をもぎたい。そうしたら囲っていられるから。彼女の庭から出られないから。

 「お花、よろしくね。根っこつきの。」

 最後に放たれたことばに目眩がした、そして、強く強くおもう。わたしは、だれをも浸食しない。わたしは、愛に甘えない。

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