未題

短編より短い短編小説

凌ぐ

 夜中になるとむせび泣く。自身の正義の是非を問う。本質にみえる道を辿っても、それが本質だという保証はどこにもない。もしかしたら圧倒的勘違いを誇示しているだけかもしれない。だとして、自身はいったい他者になにを伝えられるというのだろう。

 彼の反発した瞳を思い出すと堪えられない。家族同様に接すると決めただれかに、ぎらりと光る敵意を突きつけられた。わたしは彼を殺す気がないのに、彼は無意識に牙を剥く。
 ことばを選んで、尽くして、伝えても、彼は汲み取ってくれないかもしれない。だとしたらなんで、家族でもないだれかを家族とおもいながら傷つくことを覚悟で、その胸に飛び込まなくってはならないんだ。

 「わたしはこわいよ。こわくってこわくって仕方がない。だからずっと逃げてきたのに。」

 ずっとずっと綱渡りをしている。ぎりぎりの線を狙っている。一歩踏み間違えれば積み上げたものがすべて崩れること覚悟で、どうしてそんなおもいまでして、だれかにこのきもちを伝えなくっちゃいけないんだ。

 誤解、誤解、誤解、誤解の連続。そのたび傷ついて泣きわめいて、もうやだよ、わたしこわいよ。

 「やるって決めたんだから、やるしかないでしょう。或いは、どちらにしろこの局面に立ち向かうことになると予測していたのでしょう。」
 「そうだけど、こわいの。」
 「あなたがだれよりその先の未来を望んでいるというのに、過程だけ飛ばして結果だけ得られるとおもっているの。」

 そのとおりだね、わたしは呟いた。

 「でもせめて、だれかきいてよ、この苦しみの声を。どろどろになるくらい甘やかしてよ。一瞬でいいからわたしのことを愛でてよ。そうしたらまたあすからがんばれる気がするの。」
 「それもあなたが決めたことではないはずよ。」
 「そうなの、わたしは嫌なの、求めないの。」

 ミイラ取りがミイラになったらおしまいだ、自らに何度もそう言い聞かせる。

 「結局は言い方の問題じゃないか。じゃあ、具体的にはなにがあったというんだ。君はなにかと恐ろしいおもいをしたと口には出すけれど、事実を聞かなければ納得できない。でなければ、ただの妄想じゃないか。」

 うるさい、うるさいうるさいうるさい、うるさい!!!

 辛くて辛くてねむれない夜を誤魔化してひと晩を乗り越えた。カーテンを開けると朝日が昇っている、眩しい、でもあたたかい。そうおもえるからまだわたしは大丈夫なんだ。

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