未題

短編より短い短編小説

からり

 元気か、問われ、巡る元気に対応する単語を頭のなかいっぱいに散りばめてみる。どれも言語としては不確定で、黒く霧がかかったそれを口から出すにはあまりに曖昧で、心許ない。

 「げ、元気、ですか?え、えーっと。」

 それでもなんとか会話がしたくて、一般的な元気の状態と自身の現状とを比較しながら、うんうん唸り整理しようと試みる。

 「げ、元気、なくは、ないかもしれない、です。」

 けれど、ようやく紡ぎ出されたのはあっちでもこっちでもなく淀んでいて、つまりはどっちやねん、と彼に笑われた。

 帰宅してから、もうすこし詰めた質問をすればよかった、とわたしはおもった。彼の元気に対する認識をきけば或いは会話が成立したかもしれない。
 人生において拾ってきたたくさんの元気の欠片を集めて、ジグソーパズルみたいに手持ちのピースをはめてゆけば、もうすこし彼について詳しくわかるのかもしれない。

 けれど彼は言うだろう。
 「そんなまどろっこしいことしてられっか!」

 からっと笑い飛ばす表情を思い浮かべながら、わたしはおもう。そういうところがすきだ。

 ほんとうはもっと突っ込んだはなしがしてみたい。表面をたんたん叩くような会話じゃなくて、彼の奥底にねむる強い意思をもっともっとみてみたい。ふだんの会話からこぼれる鋭く尖った眼光でなにかを語ってほしい。
 けれど、抵抗がある。罪悪感がある。彼が望まないなら、わたしの好奇心によるものなら、それなりのなにかを差し出さなければならないとおもう。けれどわたしには現状、差し出せるなにかがなにもない。

 もどかしい。ともだちになりたい。差し引きゼロで会話を交わす仲間になりたい。けれど、彼のなかにある大切な領域を侵したくはない。

 わたしは過去殺してしまったひとの数をかぞえてみた。キリがない。

 だからせめて文をしたためてみたけれど、夜中書きあげたそれは翌朝読み返すとやはり滑稽で、本意がさっぱりわからない。仕方がない。そうおもいながらもわたしはポストにそれを投函した。送りつづけて、いつか届くと信じて。
 こういうふうに生きてけばいいんだ、おもう。自身の疑念がわたしを覆い尽くす前に、ほんのちょっぴりだれかに分けて、要らないと言われたらそうだね、と笑って。

 傷つかなくっていいんだ。いちいち傷つく必要はないんだ。

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