未題

短編より短い短編小説

夢を叶える

 目の前のだれかと視線が合わないと不安で、一瞬でもそっぽを向かれるのがとてもこわいから、わたしはいつでもだれかと繋がっていたくて、迷子のこどものようにそればかりさがしている。
 不安をそのまま声に出し眉をへの字に押し曲げると、必ずだれかがわたしを撫でてくれて、そういう幸せにとても憧れているけれど、いつでもだれかを求めるつづけるこころには際限がない。

 さびしくないの、わたしがきくと彼は「さびしいのがあたりまえだから」と言った。わたしは一瞬唸って、その現実主義にまたひとつおもいを馳せる。彼のそういう強さがわたしはすきだ。けれどときどき切なくなる。踏ん張る意識さえなく、あらゆる障害を仕方ないと受けとめる彼の壮絶な人生をおもう。
 自分のちっぽけさとか、弱さとか。話すと浮き彫りになるのは、与えてもらってばかりの少女がまだまだほしいと駄々をこね、やだもんやだもん首を振る困った姿だ。それでも彼は責めるでもなくわたしを気遣っては「自分をあまり責めないで」と言う。

 そんなにきれいなものじゃない、わたしはおもう。夢ばかりみて育ってきた。世のなかにはキラキラしたものしかないとおもって生きてきた。

 「滅私奉公がすぎるよ。」
 「そんなんじゃないの。」
 「夢をみたほうがいいよ。」
 「わたしはもう夢はみないの。」

 だからあなたが夢をみて、わたしは言う。彼はやはり首を傾げて、不思議そうな顔をする。
 わたしはこのひとの強さがすきだ。わたしの弱さを内包する強さがすきだ。そして、わたしのこの弱さが彼の強さを支えながら、輝きはじめる予感がすきだ。

 わたしはもう夢はみないけれど、ともう一度前置きしてから言う。

 夢がないわけじゃないの。
 夢っていうのはね、ショーウィンドウに並ぶたくさんのケーキをあれこれと眺めながら、どれにしようかな、考える幸福と似ている。
 きっとあなたは、ずっとひとつのだけのケーキをみてきたんだよ。それしかないと思い込んで生きてきたんだよ。けれどケーキって、ほんとうはたくさんの種類があるでしょう。まずはそれを知ってほしい。
 そして、直感でどれか選んでほしい。どんなに高くってもいい。どんなにへんてこでもいい。どんなにまずくってもいい。わたしがそのケーキを買うから。

 なけなしの勇気が届けばいいとおもう。届かなくってもいいとおもう。そんなふうに生きていくのがいまは幸せだとおもう。

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