未題

短編より短い短編小説

嘘、含み真実

 休みなんてなくっていい。そんなことより認めてほしい。身体が動かないなら、頭を動かせばいい。
 右足の甲の痛みがどこからきたのか、わたしには皆目見当もつかなかった。もしかすると1週間以上前の捻りがようやく浮上してきたのかもしれない。不自由を感じる、こころは求めても、現実に身体は悲鳴をあげる。
 それでもやるしかなくって、もちろんやりたくって、できる限り無理がしたい。休みだから休もう、おもうから余計苦しいのだ。いつでもゆったりがんばっていればいい。無などつくらなければいい。

 無は、わたしにとり生きていないのとおんなじことだ。生産しない苦しみを味わうくらいなら、いくらでも紡ぎたい。なによりいまは紡ぎ出す世界が無限に広がっている。
 知を貪り尽くす快感、ともに走る希望、あとはこの肉体さえ追いつけば、現実に顕れれば、必ず辿り着けると信じている。

 「ありがとう。やっぱりあなたはやさしい。」

 言うと彼はなぜかしゅんとし、こわいのだ、と呟いた。

 「なにがこわいの。」
 「裏があるようにみえる。」
 「みんな裏はあるよ。」

 わたしが言うと彼は一瞬顔をあげて、また俯く。

 「圧力を感じる。」
 「力にあてられているんだね。たぶん、本人は圧をかけているつもりはないんじゃないかな。」
 「そんなことない。」

 そうか、とわたしは言う。たしかにそんなことないかもしれない。
 プレイヤーにみえないようなにかが裏で動いている、そのため時折嘘がまじる、あ、いまのは嘘だな、おもっても言わない。言わなくっていい。

 「世のなかには知らなくていいことがたくさんあるよ。嘘もたくさんあるよ。けれどわたしは信じる。事実は常に変わりつづける、けれど意思は変わらない。」

 おそらく彼には伝わらないそれを、わたしはこれから何度も何度も紡ぐだろう。

 大丈夫、大丈夫。いまある世界はそんなにこわいところじゃないよ。思惑も、意図も、やさしく蠢いているだけだよ。だから信じよう。最期まで信じよう。

 わたしはにっこり笑った。彼は顔こそあげないけれど、きっと響いているとおもう。そう信じている。

 ひとりの世界はあんなに辛かったのに、いまはとても心地よい。自らに求めるより、他者になにか差し出すほうがよほど救いになる。ちょっぴり歪んだ正義だけれど、求められなくなったときはすうと手を引けばいい。だからいまは、自らのおもうやさしみを形にしていこう。

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