未題

短編より短い短編小説

かわりばんこ

 「もう二度とわたしに連絡してこないでください。」

 かかわろうとすると片っ端からかかるストップの声にはもう慣れた。結局のところ、自身に害の被る範囲に及べばひとは、そのひと自身を受け容れることができない。では自ら打てる方策として、必要以上にひととかかわらないのがもっとも賢いといえる。本人の守る価値観を阻害せず、やさしく包み込む愛をいつでももちたい。

 「ずいぶんと被害者意識が強いね。」
 「そうなんです、まるで自らはだれをも傷つけていないみたいな顔しているでしょう。」

 わたしは自嘲気味に笑った。

 「希望とか、勇気とか、おもいやりとか。反吐が出る。」
 「君がいちばん大切にしている思想じゃないのか。」

 もちろんそうです、わたしは言った。

 「けれど逆説的に、もっとも忌み嫌っている。ひとはきのうどんなに甘美な愛を語ろうと、翌日も語れるとは限らない。そういう人間の愚直さまでわたしはまだ愛しきれない。結局のところ求めている、そういうことになります。」
 「彼女の態度が気に入らなかったのか。」

 そうです、とわたしは正直に言った。

 「先日まではわたしのようすを窺い、労い、自身の病院通いについて話してくれた。けれどきょうはどうですか。もう二度とかかわるなと言う。ひとは、そういう生き物です。」

 ずいぶん傷ついたんだな、と彼は言う。

 「傷ついてしまいました。そしていま、傷ついたこころを正当化しようと刃を彼女に向けている。彼女だってほんとうはわるくない。火の粉を振り払っただけです。」

 彼はまあ落ち着け、とわたしをいなす。わたしの声は震えてくる。

 「ほんとうは無償の愛を注げるとおもっていました。わたしにはそれができると勘違いしていました。けれどわたしも結局は愚鈍な人間でした。人間が人間を超えることはできない。」

 完璧主義が裏目に出てるぞ、彼は言う。

 「わたしはやさしくありたかった。愛情深くありたかった。けれど現実はむずかしい。この刃さえしまうことができず、彼女を掠めるぎりぎりのところで何度も何度も空を切らせて怒りを逃すに必死です。」

 辛いか、彼はきいた。

 「辛くはない。きっとわたしは幼いころ、何度もこの刃で他者を突き貫いてきたんでしょう。だから今度はわたしの番です。わたしはもう十分な愛情をもらった。これからは、返していく。」

 そうか、と彼は言った。わたしは頷いた。

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