未題

短編より短い短編小説

作為的策士

 まわりをみると天才だらけだった、天才だらけでどうしようもなかった。天然は武器だ、脅威だ。本人にさえ気づかない強烈な魅力を発しながらまわりを巻き込んでいく。良きひとのところには良きひとが集う。そのようすを目の当たりにし、我ながらびっくりしている。
 なにより膝を打つのは、皆自覚なく現実を積み上げているところだ。どんなに挑んでも、挑んでも、すかしてばかりだったわたしの理想を難なく積み上げている。もちろんそれぞれ難はある、けれど、お互い難を認めている。たまらなく欲しかった現実が目の前にある。
 これ以上に幸せなことなんてあるはずない、とおもうと同時に、この現実をいつ手放してしまうか気が気でない。甘やかされて堕落するくらいならいっそ受け取らない。或いは、受け取れる範囲を見定めるためいつでも相手の反応を窺っている。
 もしそのこころをたしかめたとして、相手に自覚がなければ問題ない。ただし、自身の行為が理想を外している自覚はしなければならない。だれに頼まれたわけでもなく、これは使命だ。強烈な使命感だ。

 自身の人生に義務感を発生させないためには、自分自身を戒めるのがいちばん効果的だといえる。或いは、そのようすを気にかけてもらえるうちが華だ。一瞬でも好意に甘えれば次はない。

 一連の説明をすると相手は、それはやりすぎだよ、と言った。

 「けれどわたしはこわい。」
 「なにが。」
 「おもった以上に人間は傲慢なものだ。そして、やさしくない。」

 こんなこと聞きたくないだろうけれど、と前置きはしたけれど相手は渋い顔をした。

 「まだ疑っているのか。」
 「とても信じられない。自分自身さえ信じられない。」
 「或いは悲観的だとおもわれるだろうね。」

 相手はふんと鼻を鳴らした。

 「天才には悲観なんて必要ない。あなたは天才だから問題ない。」
 「そうして煙に巻こうとしていないか。」
 「そうだとして、真実を知った途端どんな表情をするか、考えるだけで恐ろしい。」
 「つまり信じていないということじゃないか。」

 そうだね、とわたしは言う。すくなくともまだ信じるイメージができない。みてみたい気もするんだけれど、とわたしがぽろりこぼすと、相手はきょうはじめてとても嬉しそうな顔をした。

 「夢をみよう。」
 「理想は常にある。」
 「面倒な奴だ。」
 「……申し訳ない。」

 それでもいまはこれが精いっぱいだ、わたしは顔を赤らめながら言った。着実にすすんでいる、けれど、まだ足りない。まだまだ足りない。

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