未題

短編より短い短編小説

感情転換

 昨晩の衝動を抑えたとおもったら今朝猛烈なそれに襲われ、わたしはまた主導権を奪われた。三連休の初日だというのに休みの感覚がない。ひとりの時間はどんなに自身を追い込もうと自由だ、その抑圧から、わたしは挑むことも、挑まざることもできず、感情を猛らせたままマイナスを生み、余計な労力をかけその罪をゼロに戻そうと試みた。洗面器に顔を突っ込みながら冷静に考える。理想が高すぎる。
 高すぎる理想で一歩先の視界が霞む。ひと休みすることも惜しい。けれど現実の自分はついてこない、休みたがっている。その不安げな表情に一発平手を喰らわせると驚いた表情で彼女は黙り、俯き、哀しそうに目を伏せる。けれどわたしはわからない。彼女にどんなことばをかけてあげたらよいのか、或いは、休むとはどういうことなのか、だって、現実は刻々とすすんでいるのに立ち止まる時間なんてない。

 「一歩ずつすすんでいきたいです。」

 慎重にことばを選んだつもりだったが、彼女は「二歩でも三歩でも進んで下さい」と言った。わたしはほんとうは言いたかった。この一歩は一歩じゃない。全力だと。伝わらない。
 或いは伝わらないと思い込んでいるだけなのだろうか。浮上するきもち自体が傲慢だろうか。けれどわからないのだ、どんなに誠意を尽くしても、だれからも、わたしの、だれかに、信じてほしい。

 ひとりぼっちにおもう。なんでかわからない。

 たとえばいま泣いているわたしの頭をそっと撫でてほしいとか、すぐ近くであたたかく見守っていてほしいとか。けれどひとは本来ひとりで、そのひとにも人生があって、わたしが望むのは結局自分に都合のよい生命のひとつを独占しようとする人間の本能的欲求だとおもう。
 いつもはなにか、未来にすすむ一歩のため感情を転換させるそれも、昨晩からは肉体にすら拒絶され、わたしから逃れようとしている。自身の器のくせ、自身のことを拒絶する。ここまでくるとお手上げだ、楽になるにはこの世をお暇するしかない。

 それでもこちらに残ると決めたのは、大切なひとがいるからだ。だれかを幸せにするなんて大それた使命など持ち合わせてはいないけれど、わたしにはまだ思考を放棄し、なにもかも無と帰すにははやすぎると、そう、自分で決断した。
 だとしたらいまのいま、この情けなさも過程のひとつとして受けとめる気概を持たなければならない。

 わたしはひとしきりユニットバスで声をあげ泣くと、窓を開け放った。そして、長らく日常に追われ荒んだ部屋をひととおり見渡すとよし、と意気込んだ。ひとまず掃除機をかけて、洗濯機をまわして、きょうは屋上に布団を干しにいってみよう。