未題

短編より短い短編小説

ブレーキ キキ

 やりたいとかやりたくないとか、仕事による自己実現を長らく求めていたわたしだけれど、突き詰めていくと気づくのは自分のやりたいことなど取るに足らない、どころか、そもそもほんとうにやりたいことなんて特別ないんだ、ということだった。
 つまるところ、わたしはなにもないつまらない自分を認めたくなかっただけで、やりたいことがあるわけではなかった。自らは稀有な才能に恵まれていると信じたかっただけで、その才能がまだ開花していない、そういう幻想に長らく囚われていた。

 やりたいことなんてない、わたしは空っぽ、言うと彼女は「それならば、やりたいことをみつけよう」と言った。わたしは内心顔をしかめて、そんなの要らないなあとおもった。
 つまらないこだわりが視野を狭くする。まわりとの不和を生む。結局、その才能を信じたいがためにまた不和を起こす。自分にはなんにもないんだ、それが良いんだ、おもえない限り延々泥濘にはまっていく。

 「けれど自分のことをあきらめたくないの。」

 彼女は言った。わたしは、ほんとうにそれが良いとおもった。粘りは必要だ、粘りどころがあるだけだ、それさえ、粘らなければわからない。

 わたしは自らの足を切り落とし溺れることを選択したけれど、足がなくなってよかったとおもう。切り落とした足はもうかえってはこないけれど、切り落としたくて切り落とした自覚さえあれば、だれをも怨むことはない。
 足がなくっても、歩くことはできる。不格好でも、すすむことはできる。そして手放した足の価値を実感するにはじめてみえてくる世界がある。ただし、結果論だ。決して自らの足を切り落とそうとしてはならない。

 「あなたの発言はとても矛盾しているようにおもえる。いまだ苦しんでいるんじゃない。」

 彼女は哀しそうに目を伏せた。そうかもしれない、わたしは答えた。

 「わたしにはあなたが不幸せにみえる。」

 幸せだよ、わたしは言った。いまが幸せだよ、いまがたのしいよ。こころから言ったつもりだけれど、彼女にはずいぶんと哀しい世界が映るようだった。

 「心配してくれてありがとう。けれどわたしは、幸せを味わい尽くすのが嫌なだけ。やりたいから、そうしているの。」

 彼女はそうなの、と言った。わたしはそうなの、と言った。