未題

短編より短い短編小説

怒りの昇華

 どこがわるかったとおもう、聞かれ、閉じかけた扉を抉じ開けられるに最大の抵抗感がわたしを襲った。そりゃあ、自分に自信があるときはなんだって言える、自覚もなく扉に無理やり手をかける、姿勢に敵意が湧く。
 その行為にいかなる好意が含まれていたとしても、辛いものは辛いのだ。優越の含まれたアドバイスは聞きたくない。人間の性ではないのか。

 正論はひとを傷つける。正論をすべて正しく行える者など、この世にひとりもいない。だからわたしは嫌だ。正論を振りかざすひとが嫌だ。そして、振りかざしたうえ自分が受け手へまわると途端、こころを閉ざす者も嫌だ。

 自分のことくらい自分がいちばんよくわかっている、そうおもいながら、こうして敵意をむき出しにするにも、流せないのも、自分自身がいちばん弱いからなのだ、とおもう。ただ、わかっても、この怒りばかりはどうにもならない。
 わたしはどうしたもんか、とおもった。だれかに切っ先を突きつけたい衝動を抑え、過去自らに向かった狂気を抑える。だとしたら、この感情はいったいどこにいってしまうんだろう。

 やり場のない怒りがこころのなかを駆け巡った。わたしはこの狂気のことをよく知っている。吞み込まれるとだれかを傷つける、そして、自らの肉をも断つ。必死に手を動かしながら、追われる影に酷く怯える。
 うまくいかないことばかりなのだ、きほん。そのきほんがよくわかっていれば、きっとコントロールするに容易い。けれど、感情は言うことを聞いてくれない。いくら頭ではわかっても、わたしの本能が暴れている。

 “ひさしぶり、元気?”

 わたしは彼にメールを送った。

 “元気!そっちは?”

 すぐに返信が来た。

 “うん、なんとか!元気ならよかった。仕事はどう?順調?”

 “仕事はふつうかな。とりあえず今週のバスケ部を乗り切るために区民体育館にいるよ。”

 ホッとした。なぜそうおもったのかはわからない。けれど一瞬の安息あり、しばらく放置していると再びスマホが鳴った。

 “連絡してくるなんて珍しいね。なにか嫌なことでもあった?”

 このひと言でわたしは救われてしまったとおもう。

 “やさしいなあ。”

 ふだんは口にしないことばを思い切って言ってみた。わたしはいまひとりぼっちだけれど、きっとそうおもっているのも自分の思い込みなのだとおもう。もうすこしだけ視野を広げれば、ほんとうはたくさんのやさしみが広がっている。

 いつの間にか怒りは消えていた。