未題

短編より短い短編小説

遭遇の極意

 がはは、と豪快に笑う白髪の大男はわたしをみるなりよく来たな、と言った。よく来たな、という割りに大男ははじめ、わたしのことをよくみてはくれなかった。
 それでもなんとか状況に食らいつきたくって、わたしはずっとずっと大男の瞳の奥の奥をみていた。じっとみていた。邪がなかった。
 わたしはきらり鈍く光る、もうひとつの瞳を思い出しながら、おそらくは根本にある命に異なりはないのだろう、と考えた。

 「君、たのしそうな顔をしてるな。」

 ようやく嬉々ありあまる眼差しに気づいてくれたのは30分後のことだった。わたしはまってました、と言わんばかりにさらに投げかけた視線を強めると、大男は嬉しそうに笑った。それがまた嬉しくって、わたしはようやくここまで来られた喜びを噛みしめた。

 大男にはすべての人間が巡り会えるわけではない。もし運よく辿り着くことがあったとしても、その大男がどれほどのものか知らなければそれ自体の価値がわからない。手放すこともわけないのだ。そのくせ、一旦見失った痕跡を追うのはむずかしい。

 自身のなかにある臆病さは、過去気づかず振り払ってきたたくさんの願いを背負っている。

 「たのしむことは大事だな。自分がたのしくないと相手も絶対、たのしくないからな。」
 「はい。」
 「あと、病気には気をつけろよ。何事も、身体が資本だからな。」
 「はい。」

 わたしはこくこくと上下に首を振りながら、こころの穴ぼこを埋めるようはいってくる言霊をきいた。元気が出た。反して、脳裏には鈍く光るもうひとつの瞳が映る。

 「君はあと6年で死ぬのがいい。そのありあまる煌めきを武器に駆け抜け、そして儚く散るべきだ。」

 事も無げに繰り出されたことばが反響する。

 「死の淵までいくんだよ。なんなら1回死ぬくらいでちょうどいい。」

 輝くネオンの歪んだ景色に自身の器から離れるあの感覚を思い出す。川辺に連れられ頭を突っ込まれた水のなか、もがきながらなんとか生を取り返す行為に快楽がなかったわけではない。それでも。

 「幸せになれ。仲間を大切にな。そして、生きることに誇りをもて。」

 わたしは目の前の大男をみた。瞳をもう一度ぐっとみつめた。邪がない。

 追い詰められた先にみえる景色は幻想的な世界を内包しながら、踏み入っては二度と戻ってくることのできない終末を携えていた。けれどいま、大男の背負う景色はどこまでも広がる一面の大草原に、わたしにはみえる。

 「ずっと会いたかったんです。会えてよかったです。」

 大男はがはは、と豪快に笑うとまた会おうな、と言った。わたしはぶんぶん首を振ると、また!と大きく手を振った。