未題

短編より短い短編小説

どうかそのまま。

 届くはずのない宅配便がみっつも届いた。段ボールを開きみると、実家に置いてきたはずの服がしっちゃかめっちゃか詰め込まれている。普段着で通勤するから、とあれほど伝えたのに大量のワイシャツと、上下別ブランドのスーツまでみつけた。わたしはおもわずわん、と唸ると、半べそをかきながらそれらをハンガーにかけはじめた。
 ただでさえちいさいクローゼットの半分以上を想定外の洋服が占拠する。これが世間でいうところの愛だとわかってはいても、いまのわたしにそれを受け取れるだけの余裕はなかった。大は小をたしかに兼ねる。けれど、そうして保険をかけることで失ってしまう力がある。そんな自分がどうにも薄情におもえて、またへこんだ。

 きっとひとりで家になんかいるからだ、わたしはおもった。否が応でもこころが荒んでしまう。わるい方向にばかり考えてしまう。妄想がすすむと、息がまたすこし切れた。

 よし、と立ち上がり、わたしはベランダの窓を開け放ち換気することにした。そして、先日たべた親子丼のことを思い出した。1時間も並んだあの店で、4000円もする親子丼をたべるのはもちろん人生ではじめての経験だったけれど、それ以上に3人で話したあの光景が深くこころに刻まれた。

 「いろんなところに、いってみたいね。」
 彼女はたのしげに言った。

 「いってみたい。」
 わたしは答えた。

 彼は自ら話さなかったけれど、あたたかくそこにいてくれた。

 こういう関係があるんだ、とわたしはおもった。知らなかった。ずっと閉じ込めた世界からみた風景に引っ張り出され、わたしはたしかにいま、ここにいる。

 「また、会いたいね。」

 別れ際かけられたことばが反響する。できる限りそうしたい。そして、信じてみたい。そんなふうにおもうのはとても不思議な感覚だった。

 「わたしも自分になにができるか、よく考えてみます。」

 わたしたちはあれっきりまだ会っていない。あさってまでお預けだ。

 自らの嫌悪にはまる泥のなか、わたしは自分が空っぽなのも大してわるくないな、とおもいはじめた。ない自信を取り戻そうともがくより、いっそ放置してしまったほうがいいかもしれない。代わり、彼女や彼のことを考えると、ちょっぴり元気まで湧いてきた。わたしはつい先ほどの意思と矛盾する愛と、やはり身勝手な愛を感じながらも、自分の頭をやさしく撫でることにした。