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未題

短編より短い短編小説

閉塞的隔絶感

 「だれをターゲットに企画を出すか、まずは考えてみてください。」

 言われて硬直したからだ、わたしの脳内は瞬く間に混線した。浮かぶ情報に色がみえない。いったいだれのために、問われ、問うと、錯綜する意識に自分の感覚がどんどん閉じていくのがわかる。

 「では、そのターゲットに伝えるため、企画に必要な要素をみっつ答えてください。」

 ここでぷつりと糸が途絶えた。完全に自分の領域から離れた異物のリクエストにどんどん頭が混乱していく。

 「どうしたんですか、リーダーはあなたですよ。」

 詰められてもどうしたらいいのかわからなかった。まわりの表情を窺がいながら答えさがしをはじめる、時点で負けている。それでもわたしには、その質問に一対する概念の糸口さえみつけることができない。

 「あ、あ、あの……」

 もごもごと口を動かす、印象は最悪だ。それでも相手のリクエストに応えたい、けれど、わたしにとって彼らの話す言語はもはや日本語でさえなかった。

 「君、むずかしいことをきいているんじゃないんだから。1+1=2でしょう。そんなのあたりまえのことでしょう。」

 どこが、あたりまえなんだろう。あたりまえってなんだろう。果たして1+1=2なんだろうか。そもそも、1+1ってなんだろうか。数々の疑問が頭に浮かべど、もちろんきくことはできなかった。そんなの、あたりまえのことだから。

 コンビニで豆腐と納豆をレジに出しお会計を済ませた。店員さんにどうも、と笑ってからわたしは言う。

 「すみません、スプーンください。」

 すると店員さんは、先ほどまでの朗らかな笑顔を一転させ、ぎょっとした表情をみせた。

 「スプーン、ですか?」
 「はい。スプーンです。」

 不穏な空気を感じ取り苦笑いを浮かべると、店員さんはやはりこちらをじろじろ窺いながらこれしかありません、とデザート用のスプーンを差し出した。わたしはありがとうございます、と店を出る。
 自宅に帰るとさっそく、豆腐の水を切って白いお皿に出した。そのうえによく混ぜた納豆をかけ、コンビニ袋からがさごぞとデザート用スプーンを取り出すと、その物体を豪快にかきこむ。

 だれもいない室内に食事音だけが空しく響いた。いつもよりちいさいスプーンは、たべづらい。その作業をくりかえしていると、わたしはいよいよ反響する彼らの眉間の皺を数えきれなくなった。

 「あたりまえって、なんだろう……」

 ぽつり、こぼしたことばがぽてっと落ちる。やるせなさとつながらなさと、隔絶された室内で、わたしは天井を見上げた。