未題

短編より短い短編小説

先読みのスタートダッシュ

 退路を断った見知らぬ街でひとり彷徨い歩いていた。確定できない未来に身を委ねるのはそれ自体が恐怖だ。スポーツバッグを背負いながら、宛てもなく歩く。歩いているほうが楽だった。なにも考えなくっていい。
 それでも肉体には限界がある。精神がどれほどの自由を求めようとも、重力には逆らえない。昔はそれが嫌だった。

 ひとまず図書館に向けて歩いてみることにした。公共施設なら安心できる。なるべく節約するために30分ほど歩いていくと、ちいさい公園がみえた。こどもたちが遊具で遊んでいる。和み、そのとなりにある建物の前で今度はしばらく突っ立った。

 “本日休館日”

 ネットでしらべたときには営業と書かれていたけれど、あんまり宛てにはならないらしい。仕方がないので建物前のベンチに座りひと息ついた。人生ってこういうことかもしれない。いつでも宙ぶらりん。ほんとうは確約された道筋なんてどこにも存在しやしない。
 それでもひとは、この道路はコンクリートで塗り固められていると疑わないし、なんならその先にも道がつづくと信じている。逞しい生き物だ。

 わたしは目的地を喫茶店に変えた。ネットができればどこだっていい。スマホの地図に表示された“道のり30分”にも落ち込みはしなかった。もしかしたら自分はこのために一年、足腰を鍛えてきたのかもしれない。

 歩きながら、わたしは何度もスマホを確認した。いまはメールの調子がわるい。何度も何度もスライドして更新しなければ、メールが届かない仕組みになっている。
 そのたびわたしはため息をつき、数日前を振り返る。そしてまたため息をつく。どちらにせよ受け容れるよりほかない。けれど更新をくりかえすうち、手はがたがたと震えてくる。
 そういえば足も震えていたっけ、と思い出した。口だけはいっちょまえでも、持論を展開できても、いざアクションがかかると仔犬みたいに震えてばかりだ。そんなもんだ。

 喫茶店はおしゃれなつくりのカフェだった。アイスコーヒーを頼み、待機する。何度か電話がかかってきた。一本は下関からだった。一本は不動産屋だった。そして、最後の一本は女性からだった。

 「おめでとうございます。」

 静かな喫茶店で噛みしめるようありがとうございます、呟いた。三度呟いた。嬉しいより、ホッとした。あすにバトンがつながった、そうおもった。
 わたしはスポーツバッグからノートを取り出すとつぎの展開を考えはじめた。この先の未来の足取りを確約する、物理的に可能な行動事項を列挙した。

 喜びに浸る余裕はなかった。先手先手が必要だった。