未題

短編より短い短編小説

出口のない入口

 雑居ビルの一室に入ると、OL風のおねえさんがにっこり笑った。こんにちは、挨拶すると奥のほうへと促される。室内はいたってふつう。生活感は当然ない。
 どうぞと言われ腰かけると、おねえさんはお茶を出してくれた。わたしは飲まない。もしかしたら変な薬がはいっているかもしれないから。

 「さて、まずはうちのバイトの説明をはじめますね。」
 「はい、お願いします。」
 「えーっと、その前にあなたが希望するお仕事はなんでしたっけ。」

 きかれたので、レンタル彼女ですと答えるとおねえさんはああ、そうでしたっけと言った。

 「では、すべての仕事に共通する質問をしますね。」
 「はい。」
 「あなたはどこまで大丈夫ですか?」

 えっ、とおもわず返すと、おねえさんはにっこり笑った。

 「この仕事特殊なんです。それはわかっていますよね?」
 「はあ、一応は。」
 「だとしたら、ちょっとくらい折れてもらわないといけません。」

 おねえさんの発言に、わたしはようやくしまった、とおもった。焦っていたことはたしかだ。自分があんまりにも社会に溶け込めないから、こうでもしないと生き残れないと本気でおもった。それがまた裏目に出た。
 弱っているほど、ひとは弱みに付け込まれる。意識はしていなくっとも、迷走した行動が自分自身の格を下げる。それでも、もしかしたらこの自尊心があらゆる機会を妨げているかもしれない。

 「まずは撮影会からはじめましょう。」
 「どういうことですか。」
 「どういうこと?そういうことです。」
 「それは、できません。」

 警報が鳴る、あくまで強気で返すと、彼女は待っていましたとばかりに突っ込んだ。

 「じゃあ、いまのあなたにどのくらいの価値があるっていうんですか。」

 わたしは押し黙る。

 「じゃあ、あなたの存在にだれがおかねを払ってくれるっていうんですか。」

 わたしは押し黙る。

 「わたしが言っていること、わかりますよね。」

 わかります、わたしは答えた。

 「だったら、自ずと選択するべき道もわかるはずです。」

 おねえさんは言った。きっとこの方法で数々のひとを貶めてきたんだろう。わたしは無性に哀しくなった。おねえさん自身の価値観はどこにいってしまったんだろう。いったいだれに、こんなことを言わされているんだろう。

 「ごめんなさい。来るところを間違えました。」

 わたしは席を立ち、一礼すると回れ右をした。彼女は特段引きとめなかった。ひとりくらい候補者が消えたって、代わりならいくらでもいるから。