未題

短編より短い短編小説

スウィッチ

 だれが良いとかわるいとか、そんなのない。各々が各々の課題と向き合いながら闘っている。だから自分は自分の闘いで手いっぱい。だとしたら虚しい。虚しい、と感じるのはいつも冷静なときだった。

 サウナの椅子でひとり、体育座りする。激動の二日間を思い返しながらずーんと沈み込む。死にもの狂いだから気がつかなかった。何度も何度も上映されるスライドショーに無様な自分の姿が映る。
 無様がわるいとはおもわない。ただ、恥ずかしい。聖域を離れだれかとすごすとき、わたしはもう二度とくだらないこだわりを持ち込むまい、とおもっていた。けれど、実際わたしが行ったのは無関心だったとおもう。

 踏み込むことがこわかった。相手のやりたいことをやってもらおう、という体の良い責任転嫁だったかもしれない。わたしはまだだれかとすごすことに恐怖を感じているし、その場限りの誤魔化しは悉く突き返された。

 忍び寄るあいつらから逃れることに必死だった、いつの間にかまわりの存在をデリートして感傷に浸ろうとした。そのほうがきもちいいから。傷つかなくって済むから。

 「力を貸してほしい。」

 だから、こどもみたいに絞り出した呟きをきいたとき、その少女のさびしげな瞳に吸い込まれるかとおもった。なんて素朴な感想なんだろう。

 ほどほどに蒸されたサウナの中心にある盛り塩を手に取り、自分のからだに塗り込んだ。親指のささくれに塩が沁みる。

 だれとも目は合わなかった。覗き込もうとしても、皆べつの世界をみていた。それでも不思議とさびしくはなかった。目線はちがっても、お互いみえない世界をいっしょにみようとしていたんだとおもう。
 だから無性に愛おしくなった。だから無性に駄々をこねたくなった。だれかに抱きしめてほしくなった。大丈夫って言ってほしくなった。

 けれどそれだけじゃいけないんだってわかる。闘うってきっと、そういうことじゃない。

 わたしはこれからのあれこれを思い浮かべた。考えれば考えるほど要望には応えられなかったし、気がつくのも遅すぎた。きっとこれからもそうだろう。器用じゃないから。
 今度は漠然と、明るい未来を思い浮かべる。たしかに数日遅れたけれど、まだやりたいことも、やれることもたくさんあった。そうだ、まずは関係を育んでいこう。

 この痛みを感じながら目の前のひとを大切にする、ところからはじまる。わたしは桶に汲んだ湯を豪快にひっかけ、サウナを出た。