未題

短編より短い短編小説

陰陽魚

 オレンジの折り紙をはさみでちょきちょき切り、貼りつける。ぺたぺたと塗られる蛍光塗料の色が冷たい。まるでハリボテだ。ハリボテはいくら積んでも、ハリボテだ。

 「土台がないんだよ。一本とおる線がない。」

 わかっても口には出せなかった。ハリボテがまたひとつ積みあがる。

 「ねえねえ、わたしはいったいどうすればいいんだろう?」

 不安げに聞いても答えはかえってこない。不安げに聞くから答えはかえってこない。
 誤魔化すためにハリボテを重ねる、くりかえし。いつまでそれをつづけるんだろう?

 「素養があったのに、またできなかったね。」

 自分ひとりっきり抱えたと思い込む哀しみ押し込めて、哀しみを共有しない誤魔化しを重ねてみた。何度やっても、もがいても、もがいても。

 「ほんとうにそれでいいの?」

 問われたけれどすぐには答えられない。

 「泣くな、みっともない。」
 鎧を着た大名に笑われた。上瞼にぐっと力を込め、涙を吞み込む。
 大名だから、この世のひとではないから、目の奥が閉ざされていた。けれど、やさしかったとおもう。もしかしたらさびしかったかもしれない。

 こくり頷くと、大名はまた笑った。
 「お主は語りはじめるのがちいと遅かったのう。此度は、できなんだ。」

 責めるでもなく言われ、わたしはまたうっかり大切なことを見落としていたのだと気がついた。こりゃ完敗だ。背中にはぞくりと悪寒が走る。もしかしたらまた真っ暗な世界にハリボテとともに堕ちるかもしれない。

 そんなの嫌だ。

 おもったけれど、いまのわたしにこれ以上できることはなかった。不用意にことばを積み重ねるのは、さびしみから目を逸らすこととおんなじなんだ。だからわたしは大名にもう一度だけ向き直ると、なるべくまっすぐに彼をみた。

 やっぱり大名はまた笑った、気がした。

 窓からみえる山の景色がびゅんびゅんと駆け抜けていく。わたしはうーんと伸びをすると、先ほどもらったチョコをひと欠片たべた。やさしい味がする。

 「もう、降りたくないな。」

 ぽつり呟くと、となりに座っていた友人に「ん?」と聞き返された。なんでもない、言うと「チョコありがとう、おいしいね」とわたしは笑った。期待と不安がないまぜになった帰り道のことだった。