未題

短編より短い短編小説

怒りVS.怒り

 「自分ばっかり被害者ぶらないでよ!」

 言ってからしまった、とおもった。ただでさえ余裕のない人間にいまのことばはやりすぎだ。案の定彼女は憤慨すると、沸騰したやかんのように怒鳴り散らした。

 「あんたまでそんなことを言うの!もういい、あんたら全員同じ穴の貉だよ。わたしのいま抱えている苦しみなんてちっともわかっちゃいない!」

 そう言われるとどうしようもなかった。ほんとうにそのとおりだった、反論の余地もなかった。彼女がいまいちばん苦しんでいることくらい、わたしがいちばんよくわかっていた。
 それでも目は合わせなかった。頑なにスマホから視線を逸らさず、「あーそうだよ、わたしがわるいよ」と呟くと、彼女は堰を切ったように泣き出した。そしてやはり怒鳴り散らす。

 「そうやって自分がわるいって言えば済むとおもってるんでしょう!結局他人事じゃないか!」

 どうしようもないので部屋を出ていこうとすると、彼女はまたしても怒鳴り散らした。

 「ああいいですよ、わたしが出ていきますよ。出ていけばいいんでしょう。」

 そのまま廊下を突っ切って出ていこうとする彼女を一旦は知らんふりしようと決め込む。怒るだけが苦しいんじゃない。怒られるほうも苦しい。それくらいわかれ!

 それでもドアのばたん、閉まる音がきこえた瞬間わたしは走り出していた。彼女の背中を追いかけるよう玄関に駆け込むとわけのわからない奇声を発しながら、脇にあった靴箱を思いっきり蹴った。3回ほど蹴りあげたところで木製のそれにぽっかり穴があく。
 当然彼女は戻ってこない。わたしは玄関の靴を蹴散らすと裸足のまま駆け出した。そして、閉まる寸でのエレベーターのドアをこじ開け、そのままなかに突っ込んだ。驚いている彼女の両肩をぐっと掴むと、思いっきり肩を揺さぶる。彼女はものすごい力で揺さぶられる。

 「わたしになにを求めるの!わたしにどうしてほしいの!言って!」
 「べつになんにも求めてない!あんたはあんたの道を生きろ!だいたいあんたにはだれかを心配する資格はない!」
 「じゃあなんで出ていくの!わたしは生きる、そう言ってる、そう言ってるでしょう!」
 「じゃあそれでいいじゃないか!」

 あくまで白を切りとおす姿にどうしようもない哀しみが湧いて、もういいよ勝手にしろ、と言うとわたしはエレベーターを降りた。もどかしくて切なかった。