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未題

短編より短い短編小説

確かさの不確か

 「こんなときだから冗談みたいに言うけれど、実はあなた、おとうさんのほんとうのこどもじゃないのよ。」

 あまりの衝撃に一瞬息がとまった。きかなければよかった。弟は黙っていた。わたしはドアノブにかけた手を力なく落とすと、すごすごと自室に戻った。

 20年間、ずっと知らないで生きてきた。父と、母と、わたしと、弟と4人でやってきた。わたしたち家族は凡庸ながら、お互いの関係を長年かけ大切に育んできた。
 それでも、あたりまえにあるとおもっている繋がりがなかったと宣告されることは、おもうほど簡単に受け容れられるものでもなかった。頭ではどんなに想像できても実感が伴わない。

 過去のあれこれを記憶の底から掘り起こすと、思い当たる節がないわけではなかった。幼いころからわたしはよく父親似だと揶揄された。対して、弟は美人の母と瓜ふたつだと近所でも評判だった。
 考えていくと、なぜいままでそういうことに疑問を抱かなかったのかよくわからなくなった。母が日ごろから「ふつうが一番」と口にしていたのは、きっとこういうことだったのだ。

 もはや抱えきれず、わたしは親友に電話をかけた。父と弟は親子でないらしいと話すと、親友もずいぶん驚いたようすだった。

 「もちろん家族に変わりないよ。わたしたちの関係はそんなに脆いものじゃない。」

 わたしが言うと、うん、と力強い答えがかえってきた。すこしだけ安心した。自身の存在が酷く揺らいだ状況で他者に肯定されることは、おもった以上に大切なことらしい。
 凡庸はただそこにあるわけではない。不断の努力により守られているものだ。まして日常の退屈を嘆くほど、自分でも気づかないところでだれかに守られているものだ。そういうことが途端に身に沁みた。

 わたしは電話を切ると、意を決してリビングへ向かった。そして無言でソファーに座りスマホをいじる弟を、容赦なく抱きしめた。

 「おねえちゃんはあんたのこと家族だとおもってる。血のつながりなんて関係ないよ。」

 弟はしばらく抱きしめられたあと「なに寝ぼけてるの?」ときいた。さっと血の気の引いたわたしは「そのくらいすきってことだよ!」と弟を殴った。