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未題

短編より短い短編小説

フォビア

 昼起きてリビングに下りると、いつもは仕事にいっているはずの母がそこに立っていた。内心ドキリとしたものの、わたしはひとまず尋ねてみる。

 「おかあさん、きょう仕事どうしたの?」
 「あなたこそ学校はどうしたの?」

 もっともすぎることをきかれわたしは黙った。ついにばれたか、とおもった。

 「学校から電話が来たの。」

 これはえらいことになったぞ、とおもいながら、わたしはこの夏を振り返った。昼夜逆転した日々、唯一のよりどころはネットに散らばった小説だけ。夏期講習はすべてサボった。信じられないくらい堕落したこの1か月半。
 おもえば去年の冬、ともだちの家で大乱闘スマッシュブラザーズをしてからわたしの世界はがらりと変わってしまった。帰りがけのバスできいたのだ。こころの電源がしゅーん、落ちた音。
 高校に入学したころは図書館通いが趣味だった。毎週末自習室にこもっては8時間ほど勉強し、因数分解を解きまくった。成績はクラスで2番、大学は医学部に進学、そう決めていた。

 「なんのために学校いくのかよくわからなくなった。」

 わたしは正直に言った。

 あの日のスマブラがとってもたのしかった。最強だとおもっていたカービィのストーンにあれだけ隙があると知らなかった。ピカチュウのかみなりが連打されると反則的に面倒くさいとか、十字スティックにAボタンでスマッシュを決めることが相手をふっとばすに効果的だとか、そういうことをわたしはほんとうに知らなかったのだ。

 「ごめんなさい。」

 自分のなかでがんばる意欲が湧いてこないのははじめてだった。わたしは抜け殻みたいにすごしながら、夜中に小説を読んでは泣いたりした。生きているも死んでいるもわからず、ただ時間だけがすぎていった。
 母はなんにも言わなかった。わたしはもう高校にはいけない、そうおもった。大学進学する気満々だったにんげんが、まさか高校卒業できるかどうか、本気で悩むことになるとはおもってもみなかった。

 来る日も来る日も、わたしは高校にいかなかった。

 そんなある日、徹夜明けで朝食の時間にリビングへと下りたわたしは、ひさしぶりに家族3人で朝ごはんをたべた。そして、両親が仕事へ出かけたあとほんとうになんとなく外に出た。
 もう1か月ぶりくらいに浴びた朝日が、わたしの目につんと刺さった。やけに白くなった肌が、太陽を反射して眩しかった。光が痛かった。