未題

短編より短い短編小説

記憶の企み

 のりこちゃんとさきちゃんはいつも幽霊のはなしばかりしていた。ふたりは日ごろのあれこれをなにかと幽霊に結びつけては、呪いとか祟りとか言っていた。

 「ほら、あそこに赤い服を着た女の子がいるよ。」

 あるときは冬のプールをフェンス越しに指さし言った。わたしは目をよおく凝らしみてみたけれどよくわからなかった。みえる気がしたし、みえない気もした。

 そんなさきちゃんの誕生日パーティーに呼ばれたのは翌年の夏だった。青い目のフランス人形のことは散々きかされていたので、はじめさきちゃんちのピアノのうえ実物のそれをみたとき、背筋がぞくりとしたことをよく覚えている。

 青い目のフランス人形はたいへんお行儀よく座っていた。

 だから5人でさきちゃんの部屋遊んでいたとき、こんこんと鳴ったドアを開けるとお人形さんがそこに立っているなんてもう、こわい以外のなにものでもなかったのだ。ふだんはあんまりしゃべらないはるかちゃんまでぎゃー、と思いきり叫んだ。

 終いにはさきちゃん自身が語りはじめる。

 「わたしは青い目のフランス人形。」

 そこからみんなで、なぜかきょうの主役さきちゃんを部屋から追い出し、ほか4人で一生懸命ドアをおさえることになった。がん、がん、と向こうからさきちゃん、基い青い目のフランス人形がこじ開けようとするところ、それはもう必死でおさえた。

 そのあとどうなったか、あんまりよく覚えていない。

 ただ、いつの間にかドアの外では物音ひとつしなくなって、はるかちゃんが突拍子なくトイレにいきたいと言い出した。こわがりながらも、ドアを開けるとそこにはなんにもいなくって、はるかちゃんはトイレにいって、そしてふつうにかえってきた。
 なんだか現実がよくわからなくなって、うやむやになって、さきちゃんがそのあとちゃんと戻ってきたかどうかさえ思い出せない。そういえばのりこちゃんはどんな反応をしていたんだろう。ちっとも記憶にない。

 肝心なところがなんだか虫食いみたいにぽつぽつ穴があいている。

 あれ、とわたしは最後に思い出した。あの日の誕生日パーティーはたしかに5人で開かれたはずだ。残りのひとりはいったいだれだったんだろう。