未題

短編より短い短編小説

じゃれあい

 朝起きて部屋でかたかたパソコンを打っていると、襖越しにおねえちゃーん、と呼ぶ声がきこえた。わたしは無視してパソコンを打つ。いま良いところだから、いま良いところだから。

 「おねえちゃーん。」

 かたかたとタイピングの音だけが響く。しばらくはおねえちゃんおねえちゃんと連呼されていたが、そのまんま無視しているとやがてするするとひとりでに襖が開いた。

 「おねえちゃーん。」

 どうやら妹が横になったまんま手だけのばして襖を開けたようだ。さっきよりおおきい呼び声がわたしの耳に届く。
 わたしはやりかけの宿題に後ろ髪引かれながらも、そこまで欲されるならば仕方がない、といそいそと、妹のねむる布団部屋まで赴いた。

 「おねえちゃーん。」
 「なによもう。」
 「ねえ、起こして。」
 「はあ?」
 「起こして。」
 「赤ちゃんかよ。」

 わたしはとりあえずはあ、と大げさにため息を吐いたあと、妹のうえにずしんとのっかった。妹がうっと唸る。けれどかまわず、妹の耳元にぐっと顔を近づけると起きてー!と叫んだ。

 「うるさい。そしてそうじゃない。」
 妹が反論した。

 「え、こうじゃないの?」
 わたしが真顔で疑問を投げると、妹は「わっかんないかなあ」と言いながら両手をん、と突きだした。

 「もう起きてるから。わたし完全目覚めてるから。」
 「ああ、なるほど。物理的に起こしてってことだったのか。」
 「そ。」

 いやまてよ、それにしてもなんでわざわざわたしがきみの手を引っ張り立ち上がらせるんだ、ともっともなことを言いながら、両手にぐっと力をこめて妹のことを引っ張ってみた。
 妹の上半身はすっと起きた。けれど、下半身がびくともしない。

 「おい、ちょっとは自分でも力をいれんかい。」

 一応言ってはみたけれど、えー、とへろへろしているのでたまらず、わたしもずだらーん、と妹のうえにのっかった。また妹が唸る。起きたてでよだれ臭い。よだれのにおいけっこうすきかも、と言うと変態かよと罵られた。

 「さて、もう一度いきますか。」

 そして再び、今度は上半身を起こしたあとも、わたしは容赦なく妹の両手を引っ張りつづけた。さすがに痛みには勝てないらしく、いててて、と言いながら妹は無事立つことに成功した。

 「ありがとう。」
 妹に感謝された。
 「どういたしまして。」

 ひと段落ついたので、わたしは自室へ戻り宿題を再開した。妹はリビングで朝ごはんをたべた。