未題

短編より短い短編小説

作為的策士

まわりをみると天才だらけだった、天才だらけでどうしようもなかった。天然は武器だ、脅威だ。本人にさえ気づかない強烈な魅力を発しながらまわりを巻き込んでいく。良きひとのところには良きひとが集う。そのようすを目の当たりにし、我ながらびっくりして…

お裾分けの輪

ふんわりタバコの香りがする。となりに座るサラリーマンが一日しこたま背負った疲れを、わたしの肩にあずけている。お疲れさまです、おもう。お仕事ありがとうございます。 たまたまとなりに座った彼の日々の事情など知らないけれど、時折がくんと頭を落とす…

覚悟のアップデート

頭が弾け飛んだ、同時にスマホをなくした、歯がぽきりと折れた。物事は連なるものだ、或いは、それまで頑なに拒んでいた力が反作用で瞬発する。懐疑的である、故に妄信的である、二律背反する思想のバランスが取れるときひとははじめて素直になれる。含蓄す…

余剰の心配

朝の3時に大福をたべる。4時にパイの実をたべる。5時にバウムクーヘンをたべる。現実が夢みたいで、信じられなくって、全然ねむれない。いっそのこと起きてしまえ、きょうだけは乗り切って、あすは存分に寝てしまえ。

高圧的説法

いまの幸せはあたりまえじゃない。あたりまえだとおもった瞬間、わたしは腐る。ひとの才能なんて不確かなものはちっとも信用できないけれど、もしこんな環境を手にしたとして、それが長らくつづいたとして、だとしたら人生において世界のだれをも魅了する一…

逆手の意思

2日間しっかり8時間ずつ寝たらすっきりと朝目覚めることができた。睡眠にまわした時間により断念したことは多々あれど、目先の健康を差し置いてまで取り組むべきことではない。もし必要以上に自分を追い詰める者があるとすれば、その者自身が焦っているか、…

がまん。

殴られると安心するんだ、言うと、彼女はとても危険な思想ね、と笑った。ほんとうにそのとおりだね、わたしは答えるけれど、この思想に誇りをもつ幼い少女の存在を知る。

バトンパス

ハッと目覚め時計を確認すると朝の6時半だった。ぐったりする身体の重みを感じつつ、ろくでもない休日だったとおもう。この3日間わたしがやったことといえばひたすら嫌悪に陥るばかりで、非生産的自傷を行い恍惚にさえ浸った気がする。 休むことが昔から苦手…

苦悩のふりこ

徒歩10分のところ、気づけば40分かけて歩いていた。とまらない妄想を振り払うよう右足と左足を前に出す。出しつづける。哀しみが怒りに変わり、また哀しみに変わる。連鎖をくりかえす。 「いい?みんな、芸術家になんてなるものじゃないわよ。人生、そんなに…

感情転換

昨晩の衝動を抑えたとおもったら今朝猛烈なそれに襲われ、わたしはまた主導権を奪われた。三連休の初日だというのに休みの感覚がない。ひとりの時間はどんなに自身を追い込もうと自由だ、その抑圧から、わたしは挑むことも、挑まざることもできず、感情を猛…

ブレーキ キキ

やりたいとかやりたくないとか、仕事による自己実現を長らく求めていたわたしだけれど、突き詰めていくと気づくのは自分のやりたいことなど取るに足らない、どころか、そもそもほんとうにやりたいことなんて特別ないんだ、ということだった。 つまるところ、…

怒りの昇華

どこがわるかったとおもう、聞かれ、閉じかけた扉を抉じ開けられるに最大の抵抗感がわたしを襲った。そりゃあ、自分に自信があるときはなんだって言える、自覚もなく扉に無理やり手をかける、姿勢に敵意が湧く。 その行為にいかなる好意が含まれていたとして…

かさぶた前

「たのしかった?」 聞かれたので満面の笑みで答える。 「たのしかったです!」

不和の兆し

“日本を変えるのは君だ。” 貼り出されたポスターに目眩がする。となりに集う若者数名はお互い名刺を交換しながら、ぜひ起業しましょう、と握手を交わす。目がぎらぎらしている。独特の野心が漂ってくる。この手の“パーティー”は日本中で行われているんだなあ…

沈黙の選択

すみません、すみません、すみません。すみませんを多用すると落ち着くから、現状は変わらないくせすみません、と言う。すこしでも前進したくって、誠意を示したくって、けれど口からこぼれ出る逃げ腰のすみません、にわたしは余計落胆する。 慣れない飲み会…

遭遇の極意

がはは、と豪快に笑う白髪の大男はわたしをみるなりよく来たな、と言った。よく来たな、という割りに大男ははじめ、わたしのことをよくみてはくれなかった。 それでもなんとか状況に食らいつきたくって、わたしはずっとずっと大男の瞳の奥の奥をみていた。じ…

無垢な狂気

いつもどおり帰った自宅で、いつもどおりでない出来事が起こった。ドアを開けた瞬間蠢く人影に戦慄する。まさか、とおもう。まさか。ここまでやるなんて。人影は玄関の物音に気づき振り返ると茫然と立ち尽くすわたしをみるなりにっこり、微笑んだ。 「おかえ…

はじめの一歩

きょうはニュウシャシキだ。電車に揺られながらそわそわと落ち着かないこころをおさえて、なんとか社会人三年目にみえるよう、背筋をぐっとのばしてみた。見慣れない外の景色を横目でみながら、きょうからシャカイジンなんてすごい、と改めておもう。

どうかそのまま。

届くはずのない宅配便がみっつも届いた。段ボールを開きみると、実家に置いてきたはずの服がしっちゃかめっちゃか詰め込まれている。普段着で通勤するから、とあれほど伝えたのに大量のワイシャツと、上下別ブランドのスーツまでみつけた。わたしはおもわず…

壊れた時計

ひさしぶりにきいた親戚のおじちゃんの声に、わたしはようやく自分の居住まいを正せる日がきたんだ、とおもった。 「おじちゃん、ひさしぶり。あのね、ありがとう。よろしくお願いします。」 おじちゃんは噛みしめるようによかったなあ、と言うと、まさか囲…

閉塞的隔絶感

「だれをターゲットに企画を出すか、まずは考えてみてください。」 言われて硬直したからだ、わたしの脳内は瞬く間に混線した。浮かぶ情報に色がみえない。いったいだれのために、問われ、問うと、錯綜する意識に自分の感覚がどんどん閉じていくのがわかる。

ゆりかご

「もし、申し訳ないですが急用につき家をあけます。お立ち会いお願いいたします。」 オーナーはふたつ返事で了承すると自転車の鍵を貸してくれた。きのうはコインランドリーの鍵を借りたばかりだった。オーナーとはいえ、果たしてあまりに不用心ではないかと…

天才の受難

絶句した。すくなくとも予測した未来ではなかった。同時に、だれがなってもならなくっても、なんにもおかしくはなかったと気づく。 「俺は理由なんてつけたくないね。だってそうだろう?落ちたことに理由が必要か?」

先読みのスタートダッシュ

退路を断った見知らぬ街でひとり彷徨い歩いていた。確定できない未来に身を委ねるのはそれ自体が恐怖だ。スポーツバッグを背負いながら、宛てもなく歩く。歩いているほうが楽だった。なにも考えなくっていい。 それでも肉体には限界がある。精神がどれほどの…

出口のない入口

雑居ビルの一室に入ると、OL風のおねえさんがにっこり笑った。こんにちは、挨拶すると奥のほうへと促される。室内はいたってふつう。生活感は当然ない。 どうぞと言われ腰かけると、おねえさんはお茶を出してくれた。わたしは飲まない。もしかしたら変な薬が…

スウィッチ

だれが良いとかわるいとか、そんなのない。各々が各々の課題と向き合いながら闘っている。だから自分は自分の闘いで手いっぱい。だとしたら虚しい。虚しい、と感じるのはいつも冷静なときだった。

陰陽魚

オレンジの折り紙をはさみでちょきちょき切り、貼りつける。ぺたぺたと塗られる蛍光塗料の色が冷たい。まるでハリボテだ。ハリボテはいくら積んでも、ハリボテだ。

片道バス

改札で手を振ったのは1度だけ。振り返らなかった。ぱんぱんに詰め込んだキャリーバッグをごろごろ押しながら迷わずエレベーターに乗り込む。予定どおりの電車に乗った。 夜中の23:30から旅をはじめるのも珍しい。車内は酔ったサラリーマン、停車するたび交わ…

キリトリセン

遠く離れた田舎町にひとり、内見予約を入れる。いまだ定職なし。それでもなぜかとびっきりの希望を抱え問い合わせると、向こうは朗らかに受け取ってくれた。顔もみえないやり取りで物件を手配してくれた。ほんの1時間の内見で、段取り鮮やかに案内してくれた…

闘志の色

どこか見覚えのある顔だった。何度もみたことのある顔だった。もしかしたら、とおもったけれど言わなかった。他人の空似かもしれない。けれど彼女が自身を紹介すると、やはりテレビでみた彼女だとわかった。 「わたし、この仕事以外考えられないんです。」

ノスタルジア・ブルー

18.5帖の広々リビングにグランドピアノ、いつでも飲める水素水生成器設置、お菓子づくりに便利なオーブンレンジ付、夢のカウンターキッチンで食卓の準備もらくちん。しかも3LDKの11階建て最上階、夏はベランダから花火の一望できる海沿いのマンション。

ひとりよがり

わたしは自分でも意識しないうちに大層甘やかされて育った、いわゆる箱入り娘だ。わたしをわがままな娘に育てるため、父なんてわざわざ占い師のもと、わがまま娘に育つ名前候補を打診しにいったくらいだ。その甲斐あってわたしはひとの好意を受け取るになん…

怒りVS.怒り

「自分ばっかり被害者ぶらないでよ!」 言ってからしまった、とおもった。ただでさえ余裕のない人間にいまのことばはやりすぎだ。案の定彼女は憤慨すると、沸騰したやかんのように怒鳴り散らした。

哀しみの落とし穴

貼り出された番号はなかった。わざとコンビニを迂回して踏切を渡る。道すがら、この前の男が座り込み待っていたからだ。ちらり目が合えどふいと逸らされる。いまの彼には興味がないのだ。代わり、肩を落としすごすごと帰る彼女たちには陽気に声をかける。

確執の隙間

「ねえ、遊ぶってどうやるの。」 「あんた、遊んだことないの?」 「遊ぶっていったいなにかわからない。そうおもったことはない?」 わたしが尋ねると、姉ははあ、とため息を吐き面倒くさそうに目をすがめた。

急転直下の浮上

日常は突然幕を閉じた。あんまり突然だったので、わたしはぽかんと口を開けたまましばらく佇んでいた。まさかのんびりおひるごはんをたべているなか、電話一本でおわりを告げられることになるとはおもってもみなかったのだ。 けれどひとまず、わたしは「わか…

見送り電車

電車のホームでベンチに座っていた。息が荒く、からだが震えている。動こうにも動けない。いつからか頑なに固まったそれに困惑しつつ、乗らなければならないジレンマを抱えていた。

ある日のLINE

「おねえちゃん、いまなにしてるの。」 午後1時ごろ、LINEの着信音が鳴った。滅多に鳴らないそれを確認すると妹からだった。

掃きだめの心労

「おもえば25年前から悲劇ははじまっていたのよ。」 彼女は項垂れると手にした缶ビールをやや乱暴にぐいと傾けた。すでにテーブルの下には3本の空き缶が整列している。それらを眺め、ひとまず彼女のはなしに耳を傾けることにした。

特異さがし

「おめでとう!君は7000人のなかの300人に選ばれました。もちろん承諾するよね?」 「ありがたいはなしですが、お断りします。」

能面の沈痛

差し出されたケーキボックスに珍しく母の表情が綻んだ。ちょうどいま甘いものをコンビニにでも買いにいこうかとおもっていたところなの。ねえ、と言われ、わたしは頷く。

強行突破

息がはあはあとあがる。走っているせいじゃない。想像してあがっている。わたしは足をとめず走りつづけ、帰宅すると早々にシャワーを浴びた。 腰を丸め、口元を手でおさえる。発作は加速した。はっ、はっ、まるで犬みたいに息を荒立て、泣きわめきくのをぐっ…

ちょっきん!

背中をあずけた薄い壁の向こうからは隣人の鼻歌がきこえてくる。すぐとなりには大切なひとが、なにやら熱心に書きものをして。そうしてわたしは川上弘美を読んでいる。のどかな昼さがり、そのすべてがいまここにある。

お天気や

「無断欠勤ありえません。」「メール連絡ありえません。」「社会人たりえません。」 一旦切れた意識を手繰り寄せるよう猛追することばの羅列にあの感覚が蘇ってきた。いつもいつもわたしはおんなじ失敗をする。はじめは笑っている、愛想よくいられる、相手の…

確かさの不確か

「こんなときだから冗談みたいに言うけれど、実はあなた、おとうさんのほんとうのこどもじゃないのよ。」

石の上にも二十日

おもいのほかあたたかい風を受け、すっかり春めいた外の世界に驚く。ずいぶん長く太陽を避けていたらしい。なにせ駅を歩くにも極力下を向いていたから、外出する時間もどんどん遅くなっていた。ひるまは夜と異なりひとどおりも多い。選択的にひとの波をかわ…

フォビア

昼起きてリビングに下りると、いつもは仕事にいっているはずの母がそこに立っていた。内心ドキリとしたものの、わたしはひとまず尋ねてみる。

記憶の企み

のりこちゃんとさきちゃんはいつも幽霊のはなしばかりしていた。ふたりは日ごろのあれこれをなにかと幽霊に結びつけては、呪いとか祟りとか言っていた。

忘れては

わたしが高1のころの古文の先生はさながら作家のようだった。いわゆる日本の最高学府を卒業した彼はたいへんな読書家で、いつも小説を小脇に抱えては隙あらば本を読むひとだった。彼が廊下を歩きながら読書する姿を、わたしは何度もみたことがある。そんな彼…

異日常

事情聴取を受ける兄を待つ時間はとても長かった。事務所の出入り口にある長椅子に妹とふたりで座る。こんにちは、と感じの良さそうな挨拶をした警察がまずきいてきたのは、あなたたちは兄のなんですか、ということだった。ただの付き添いで家族です、と正直…