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未題

短編より短い短編小説

先読みのスタートダッシュ

 退路を断った見知らぬ街でひとり彷徨い歩いていた。確定できない未来に身を委ねるのはそれ自体が恐怖だ。スポーツバッグを背負いながら、宛てもなく歩く。歩いているほうが楽だった。なにも考えなくっていい。
 それでも肉体には限界がある。精神がどれほどの自由を求めようとも、重力には逆らえない。昔はそれが嫌だった。

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出口のない入口

 雑居ビルの一室に入ると、OL風のおねえさんがにっこり笑った。こんにちは、挨拶すると奥のほうへと促される。室内はいたってふつう。生活感は当然ない。
 どうぞと言われ腰かけると、おねえさんはお茶を出してくれた。わたしは飲まない。もしかしたら変な薬がはいっているかもしれないから。

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スウィッチ

 だれが良いとかわるいとか、そんなのない。各々が各々の課題と向き合いながら闘っている。だから自分は自分の闘いで手いっぱい。だとしたら虚しい。虚しい、と感じるのはいつも冷静なときだった。

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陰陽魚

 オレンジの折り紙をはさみでちょきちょき切り、貼りつける。ぺたぺたと塗られる蛍光塗料の色が冷たい。まるでハリボテだ。ハリボテはいくら積んでも、ハリボテだ。

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片道バス

 改札で手を振ったのは1度だけ。振り返らなかった。ぱんぱんに詰め込んだキャリーバッグをごろごろ押しながら迷わずエレベーターに乗り込む。予定どおりの電車に乗った。
 夜中の23:30から旅をはじめるのも珍しい。車内は酔ったサラリーマン、停車するたび交わされる「お疲れさまでした」の声に1日のおわりを感じる。

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