未題

短編より短い短編小説

郷愁

 朝起きて、喉の痛みを感じる。頭が熱い。きのう突っ込んだ指と、内臓への負担を考えると妥当な結果だとおもう。夜中になると突然発熱する身体をなんとかねじ伏せ越える夜、わたしは知らないうちなにか禍々しい化物を抑圧し生きていると痛感する。
 怒りはたまっていく。哀しみは沈んでいく。そのなにかを糧に日々生きる。それでも、と彼女は言う。

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長いグラウンドラン

 「おねえちゃん、もう不幸せに逃げるのはやめたいんだ。自分を、変えたいんだ。」
 ひさしぶりにかかってきた電話を取って開口いちばんそう言うと、弟はうん、と頷いた。

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衝突事故

 彼はよぼよぼの身体にぱりぱりの一張羅でやってきた。75歳にしては顔がつるりと光っていて、わたしははじめ、それがなにを意味するのかよくわかってはいなかった。
 ひさしぶりだね、彼は言い、おひさしぶりです、わたしも言う。さて、いこうかと連れていかれたのは中華料理店だった。

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雪解け

 堪えるしかない。どんなに孤独を感じても。見返りはなくとも。やりたいからやっている、その意思をもって。変えるのは相手じゃない、自分だ。
 誤魔化しも、焦りも、受けとめられるのは自分だけ。この自分をもって、堪えて堪えて堪えて、乗り切る。だれにも任せない、自分の人生を自分で背負う。

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踏み出す、踏み出す。

 幸せに浸り泣きそうになるときがある。いまがあまりに幸せすぎるから、この幸せが溶けて消えたときわたしは、もういままでの自分のまま生きることがむずかしくなるようにおもう。
 幸せを掴むと幸せがなくなる気がする。幸せの味をおぼえてしまうのがこわい。だからずっとずっとがんばると決めた、この幸せを守るためにずっとずっとがんばると決めた。

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